2011年5月20日金曜日

ガイジンが見たニッポン ― 書評:日本 権力構造の謎

菅直人は首相なのにエラくないのはなぜか?読めばわかる。

外国人の目に映るかぎり、たいていの日本人が、日々の生活の中で共同体の利害を個人の欲望や利害より優先させるという日本社会の要求を、おとなしく受け入れているように見える。ところが、この顕著な集団志向は、実は、300年以上も前の為政者によって作為的に社会に組み込まれた政治的所産なのである。そしてそれは今日でも、本質的には政治的方便であることに変わりはなく、日本人はそれに従うかどうかを選ぶことはほとんどあるいは、まったくできない。

日本 権力構造の謎〈上〉 (ハヤカワ文庫NF)
カレル・ヴァン ウォルフレン
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日本を統治しているのは君主や大財閥の総帥や軍のトップなどの分かりやすい人間ではなくて、日本という「システム」そのものだとウォルフレンは言っている。それは同時に、日本人は否応なく「システム」の歯車だとも言っていることになるわけだが。

著者が日本在住のオランダ人であったことは、本書にとって最大のアドバンテージになっている。それは内田樹が書いた「日本人とは何か?」という自問と根本的に異なるからだ。

大抵の場合、自問には苦悶の跡が滲む。それは、孫子が早くから指摘したとおりだが、敵を知るよりも己を知る方が圧倒的に難しいという事情に由来している。日本人の書く日本論は、そうした困難からは離れられないし、逆に離れてしまえばスカスカで重みのないものにならざるを得ない。

ウォルフレンはガイジンであるアドバンテージを活かして、実に冷静に粛々と不思議の国ニッポンの様子を記述してみせた。粛々とは特に文化論に手を出さない姿勢あたりのことだ。ネイティブであれば「辺境だから」と言ってみせるところを、冷静に事実をだけを紡いでいくガイジンの特権がフル活用されている。

ウォルフレンが本書を世に問うてから四半世紀が経つが、それでも現在の読者を納得させる説明力を本書が有していることが、事態のどうしようもなさを物語っている。

何はともあれ、まずは敵を知るところから始めねば。敵を知り己を知れば百戦危うからずは世の鉄則だが、本書は両得である。なぜなら、日本の「システム」を知ることが、あなたの人間性を制限する敵を知ることだとして、それは同時にシステムの歯車としてのあなた自身を知ることなのだから。




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ガイジンさんが日本へ来たらふつーにマトリックスに見えた!?

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